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虫の会議



磯崎憲一郎さんの最高傑作『電車道』は、裏山の洞窟から村を睥睨したところから、物語が立ち上がり、力技で時間軸を自在に飛翔しつつ、百年の鉄道史およびエトセトラを快活に語りきる素晴らしい作品である。ラテン・アメリカ文学に傾倒する著者らしい、圧縮の技法を用いた世界水準の作品だと思うのだけど、僕の周囲で読んでいる人は、ほぼ皆無である。史苑風に言うなれば「なんでな~ん?」ってな感じだ。それはさて置き、磯崎さんはある年の初詣に行った際に、近所の神社の洞窟に足を踏み入れた途端に『電車道』の着想を得たというような発言をしておられたように記憶しているのだが、何らかの物語を書いたことのある人ならば、多かれ少なかれ同様の経験をしていると思う。僕自身、ふらりと立ち寄った軽食屋での経験を発端に『喫茶ユニヴァース』を書いたし、あのときは本当にこの世の終わりがきても料理は運ばれてこないんじゃないかと思うくらいに僕たちのオーダーした料理は出てこなかった。客を待たせて平然としている店側の対応を見ても、ここには世の中の真理が潜んでいる、あるいはここの厨房に世界の秘密が隠匿されているのではないかと、大いに妄想力を掻き立てられたものである。あれは貴重な体験だった。他にも警備巡回の無駄さにヒントを得た『その足音は案山子を知っている』や、警備業務そのものの特異な時間軸を切り取った『Why are you here?』、心療内科での通院経験から空白に埋没してみた『JAGUAR』、あるいは自分の方向音痴を逆手にとって、統合失調の領域にまで歩み寄り祖父と息子を邂逅させた『棺によせて』などなど実体験から物語が立ち上がる例を挙げれば枚挙にいとまがない。その最も最初期の実績が『鎮守の森』だったんだと思う。僕らが幼い頃から慣れ親しんできた片山公園はいまでこそ開発が進んで(良くも悪くもね)陰鬱な気配を微塵も感じなくなったけれど、僕の子供の頃は昼と夜ではまったく異なる表情を見せる裏山だった訳だ。そこで友人たちと段ボールハウスを建てて一晩過ごしたこともあるし、『韋駄天』という自主制作映画を製作した現場でもあったり、何かと想い入れがある場所(そもそも父方の祖父の墓がある)だ。しかし同時に不気味さも感じていた。同級生の女の子が何者かに全裸にされた事件現場でもあるし…。父が片山公園で捕まえてきた巨大な蛇が一夜で姿を消したなんてこともあったな(笑)。とにかく物語が立ち上がる可能性はそこここに潜んでいた。そこから生まれた話が低俗の極みである『鎮守の森』というのも何だか泣けてくるが、そのことを妻に伝えても、いまの片山公園の姿しか知らない妻にはなかなか伝わりづらい描写もあるようだ。そんなこんなで生まれ変わった片山公園は、いまも僕たち親子の遊び場として立派に存在している。今日も強烈に冷たい風が吹き荒ぶなかを、史苑とふたり(妻曰く、部屋でおとなしく過ごせない親子)で探検ごっこをしてきたのだ。史苑は昆虫図鑑の影響で夜中に「ブイブイこわいー、Geeちゃんやめてー!」とうなされ続けていたのだが、朝になると自分のトラウマを乗り越える為なのだろうか「おっとー、ドングリ公園にかわいいトンボさがしに行く!こわいトンボちゃうで、かわいいトンボ!」と血気盛んな様子(笑)。そう言えば舞城王太郎さんの超傑作『熊の場所』にも「トラウマを乗り越えるにはそこから距離を置くのではなく、すぐにその場所に向かわなければならない」みたいなことが書かれていたよね。とにかく史苑は両手に枝を持って、池の中や藪の中を掻き分けて「トンボちゃん出てこい!」と必死に探していた。まぁ、いまはトンボの生息時期とは異なるので最後まで遭遇することはなかったんだけど、木の実とドングリを収穫して満足そうにしていたので、まぁ良かったのだろう。こうして史苑は彼なりのやりかたでひとつのトラウマに戦いを挑み、戦利品を携えて帰路についたのであった。

20160124-2.jpg
鋭い視線で周囲を観察し、トンボを探す史苑。

本日の一枚。KARINA SANTOS / PURE ANGOLANA
pura-angolana.jpg

昨年エルスールレコードのおかげで初体験できたフィメール・キゾンバの傑作。例によってキゾンバがどういうものなのかは具体的にわかっていないものの、まろやかなサウンドのアンゴラのポップスには身も心も蕩けました。聴いている間は寒さを忘れさせてくれますね。耳で聴くファンヒーター、耳から暖まるリスニング・エコ…、あー、なんて陳腐な表現なんだろう(笑)。そんな僕の戯言に惑わされずにカリナ・サントス嬢のキュートな歌声に耳を傾けて下さい。音楽性も幅広く、様々な音楽強者を虜にしそうですね。とりあえず「Pura Angolana」を聴いて!ほら欲しくなったでしょ!しかーし…、宮益坂ビルディングの解体に伴い、本日をもってエルスールレコードが一時閉店される。近いうちに復活されることを心から待ち望んでいよう。原田店長、ひとまずお疲れ様でした。またオーダーできる日を楽しみに待っていますよ。
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未分類 | コメント(2) | トラックバック(0) | 2016/01/24 22:35
コメント
No title
決して作品の悪口ではなく、むしろ褒めていると捉えて欲しいのですが、あなたの作品は読んでいる間はいつも不気味なのにさほど恐くない世界に連れて行かれます。でも不思議な事に読み終えた時、私何読んでたんだっけ?ってなります。
物語というには曖昧で、不思議な世界という表現だとに軽い、「独特」とか「個性的」というか、土井さんを読んでいるという感じ。
ようするに、土井さんの紡ぐ言葉はあなた丸出しなんです(笑)
たまに土井さんを知らない状態で読みたいと思います。もし私が記憶喪失になったらお見舞いに来てください。本持参で。
よろしくお願いします。
No title
ちーずさん

ありがとう!今回のコメントは嫉妬を覚えるくらいにガツンとくる表現ですね。僕にとっては最も嬉しい言葉やわ。貴女が記憶喪失になったら、必ず山ほどの原稿を携えて見舞いに行きます。約束、ね!

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